言いたい放題

ソバージュの女

 もう20年以上前になるが、当時流行った女性の髪型にソバージュというのがあった。肩ぐらいまでの長さの髪にウェーブをかけて垂らすというもので(説明が的確かどうかはわからないが)、実は当時付き合っていた女性が、ある日「ソバージュにする」と言って美容室に行き、帰ってくるといつもより魅力的になっていた。その日の夜は、何か違う女性とセックスしているような錯覚に陥ってしまい、目くるめくときを過ごしたのを覚えている。
 美容院は女性にとって、戦闘準備を整えるための場所だ。髪型は女性にとって最大の武器のひとつ。男の心を虜にし、その女性のためにすべてを投げ出す覚悟さえさせてしまう。クレオパトラの髪型を見れば、それは一目瞭然だ。一体何人の男があの髪型の犠牲になったことだろうか。
 女は髪を切るとき、色々な思いをこめる。自分を捨てた男への恨み辛み、好きな男を誘惑するためのエロス、必要がなくなった男を捨て去るための強い意志、そうした様々な情念を、女は自分の髪に隠し持っているのだ。そして、男に対してはそのからくりを絶対に明かさない。恋人同士であろうが、夫婦であろうが、ひたすら隠し通すのだ。
 しかし、その髪型にこめられた様々な情念は、着実に男の心に忍び寄り、気付くと男は女の手の上で、悲哀に満ちたダンスを踊っているのだ。しかも、男にその自覚症状は一切ない。
 女が美容室で髪型を変えたときは、要注意だ。それは男に対する情念が劇的に変化したことの何よりもの証であり、よきにつけ悪しきにつけ、2人の関係に大きな変化が起こる前兆であることが多い。だから、男は細心の注意を払いながら事に当たらなければならないのだ。
 私は、そのソバージュの女とは長く付き合った。年がら年中一緒にいたが、息苦しさは全くなかった。延々と続くたわいのない会話が無条件で心地よかった。甘えることを許してくれる女だった。というより甘えてほしいと心から願っている女だった。
 もう20年以上も前の話だ。いまどうしているのかと、ふと思うことがある。彼女は、美容室で髪を切るときに、どんな思いを髪にこめていたのだろうか?僕達の恋愛に対して、どんな情念を髪に隠し持っていたのだろうか。ひょっとして僕は彼女の手のひらで踊らされていただけなのだろうか。最後は、僕の方から別れを切り出してしまったけど、あれから20年以上が過ぎ、一緒にいて彼女以上に心が和む女性には、ただの1人も出会っていない。

女が思いをこめる美容室のご案内:
千葉駅から徒歩5分にある美容室:美容室fleu

[2017/09/16]

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